福島第一原発の処理水排出に見る、安全と安心

※このページの内容は、処理水の海洋放出を肯定するものでも否定するものでもありません。
※そろそろタンクがいっぱいで排出するしかないにもかかわらず、
 反対派が多いのはなぜか?を考えていくページです。


福島第一原発で貯蔵している処理水の海洋放出が、2023年8月22日に決まりました。(放出自体は決まっていた。)
政府は一定の理解を得た等と言っていますが、この放出・排出は、「安全」で「安心」なのでしょうか。

まず前提として、政府が「事故は起こらない」と言っていたものが事故を起こしました。
そして、現在も全く片付け終わっていません。
科学的ではない発言を繰り返してきた政府と電力会社が、
いまさら「科学的に安全」という言葉を使うのは、不適切です。


さて、まずは「安全」ですが。
科学的に安全かは放出時・放出後の調査と、長期的な調査でわかるものだと思います。
2023年におけるトリチウムの安全基準が、この先ずっと安全な値かはわからないですが、
そういうことを言っていると永遠に進まなくなるので、ここはとりあえず安全であると仮定します。
※国が公害被害者をなかなか認めないという前例もあるため、とりあえず安全と仮定することに
 違和感のある方もいるとは思いますが、このページで書きたいことはそこではないのです。
 話を進めるために仮定しただけであり、国が処理水を安全としたことを肯定も否定もしていません。


では「安心」はどうでしょう。
報道を見ている限り、おそらくこれは十分に得られていないです。
漠然とした不安、嫌な気持ち、心配、といった感情をお持ちの方は、どうも多そうです。
処理水排出に反対している人は、こちらを理由にしている場合が多いように見えます。
「処理水排出はやむなし、でも政府と東電がやるのは嫌」みたいな感じです。
ではこの「安心」の正体は、いったいなんでしょうか。

それは、「信用」「信頼関係」だと思います。
もし東京電力や政府が原発の事故リスクの説明、事故ったときにどうなるか、実際にどうなっているのかを説明していて、
かつ排水時期を閣議決定する前に現地に出向き、何度も説明を繰り返していたら……また違っていたと思うのです。
そういうのを全部すっ飛ばしてきたから、信用されずに反対されるのでしょう。
それどころか、40年を超えた原発でも再稼働OKにしたり、運転停止期間は稼働期間から外すなんていう、
機械に少しでもかかわったことのある、「まともな」人ならありえない判断を311以降にしています。
東京電力は書類不備等で柏崎刈羽の審査が遅れていましたが、こういったものも稼働期間から外されるのでしょう。
こんなことをしていたら、「また何かあったら一方的に押し付けられるのではないか」「本当に海産物に影響はないのか」
「なんで地元こないのに海外との話は終わっているの?もしかして私、軽視されてる!?」と感じても仕方ないです。
※原発政策自体が都合の良い説明とお金で分断を煽っていくものなので、正しい説明なんてされなくて当たり前ですが。
※書類の不備に関するニュースはこちら。
 https://www.yomiuri.co.jp/national/20230129-OYT1T50149/
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230125/k10013960681000.html
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/208423


そして、今回の処理水排出で言っていることは、「国際基準に合致している」「国が責任を持つ」「風評被害対策」です。
今まで責任を持っていましたっけ?風評被害対策も十分にできておらず、
最近まで事故地域の食品の輸入禁止措置をとっていた国がありました。
そもそも事故の後処理もまだ全然終わっていませんし、当初の予定より遅れていて終わる見通しも立っていません。

事故らないと言っていたものが事故ったときの責任というのは、元通りにすることではないでしょうか。
これは法的な責任とは違います。原発に限らず法的な責任だけをとればいいならば、事故った者勝ちになってしまいます。
高度な科学技術を扱うためには、高いモラルと倫理感が必要です。(モラルと倫理はほぼ同じ。)
でも、事故後の東電の会見は毎日しどろもどろで、言い訳じみたものばかりでした。
保安院の西山審議官が大事なことをゲロった直後に更迭された、なんてこともあったように記憶しています。
こんなことをしていて、どうして信用・信頼関係が得られるのでしょうか。


もちろん機械は壊れます。事故の可能性が0ということはありませんし、
日本でも原子力発電所での死亡事故というのは存在しています。
でも、事故を0に近づけることはできます。
そのために必要なものを事前に準備したり、日々のメンテナンスや老朽化の確認、
関係者への十分な教育、古くて怪しくなってきたら利用を停止する・リプレースする等を行うわけです。

では、事故時の東京電力はどうだったでしょうか。
非常用発電機の水没、電源車などの準備不足、現場の職員さんは
懸命に対応してくれましたが知識不足だった感じも否めません。
信用のためにまずやることは、こういった問題点をひとつずつ改善していくことです。
にもかかわらず、東京電力は場当たり的な対応が多かったり、
改善するつもりがあればやらないような書類の不備もやっています。
また、311以降の原子力政策も、40年以上の原発でも稼働OK、運転停止期間は稼働期間に含めない、
検査書類に不備があっても大きなペナルティなしetcと、あまり変わっていないです。
検査する姿勢をとるようにはなりましたが、この検査は絶対に安全ということを証明するものではありませんので、
十分な安全対策は各電力会社が行う必要があります。本来は、元々そうなんですけれども。
(原発に限らず過失があれば責任は事業者が負うものですが、日本はそこから逃げる傾向があるように感じる。)
こういった、これまでできていなかったことを行うためには、組織が変わる必要があります。
書類の不備を出している場合ではないのです。

どう贔屓目に見ても、これで信用を得るのは難しいです。
東京電力は放出に理解を求めるYouTubeのCMを作る前に、やることがたくさんあります。
信用は科学の問題ではなく、人と人、人と政治の問題なのですから。
というより、原発の話はずっと政治の問題であって、純粋に科学の問題だったことはほとんどないです。


「科学に安心や信用といった気持ちの問題を持ち出すな」という方も多いようです。
だったら「原発は事故らない・絶対安全!」なんて非科学的な発言をしてはいけませんし、
建屋吹き飛んだ映像も、スピーディの情報も、隠さずにちゃんと出したら良かったですね。
(前者は自民党政権・後者は民主党政権ですが、どちらも原発推進していたことにかわりはありません。)
これまでずいぶんと政治的な判断や都合の良い判断を繰り返し、先に科学的な姿勢を崩しておいて、
都合の良い時だけ科学を持ち出すのは、フェアなやり方ではありません。

現状、処理水が多量にたまっていて、タンクの増設もそろそろ難しいというのは現実ですし、
基準以下に薄めて排水するというのも、ちゃんとやるなら本当でしょう。
しかしそれは、排出をごり押しして良い理由にはなりませんし、
それを根拠として、反対している人を叩いて良いわけでもありません。
それをやるのは、事故前の原子力政策と同じ姿勢です。

タンクを増設しなければ処理水はためられませんし、タンクも劣化しますから、現実的にはもう排出するしかないです。
容器がなければためられなくなるという事実がわからない人は、日本の教育レベルならほとんどいないはずです。
反対している人たちだって、それが理解できずに反対しているわけではなく、
安心を得るのに必要なステップが正しく行われなかったから反対しているのでしょう。


この件を政治利用しようとしている国があるようですが、それは仕方がないです。
あちらの国の排水が日本より汚かろうが、あちらはレベル7の事故は起こしていない。これは事実です。
事故のこと・その片付けが全く済んでいないことを直接つっつかれる前に
解決しておかないと、もっと面倒なことになります。
自国民にすら理解をうまく得られない政府が、アジアのあの大きな国を相手にするのは難しいですけれども。


本文ここまで。
―――

排水は安全か確認してから海に流すそうですが、
その計器壊れてない?本来のルート以外から水漏れてない?
これまでそういうことやってきたら、またやるのでは?と思われてしまいます。
信用を得るのは時間がかかりますし難しいですが、失うのは簡単です。



この件に反対している人たちに、代案を出してから反対しろ等と言っている人を見かけます。
民主主義はただの多数決ではありませんから、正しく機能していているのなら、
議題が出てくれば何らかの意見も出てきます。正しく機能しているのなら、です。
なので、代案が出せないからと言って黙る必要はないです。
必ずしも代案があることばかりではないですし。
そもそも議題が違えば賛成反対が逆転することはいくらでもありますし、
対案を出せない側が変わるということも多々あります。

それより、肯定にしても否定にしてもそれ以外にしても、
自分たちに都合の良い意見ばかりで、正しい批判が少ないのが気になります。
そもそも、肯定と否定の間にもいろんな考え方の人がいるはずなので、
完全に二分できるものでもないのです。



安全ならばボトル詰めして水素水として売ればいいと、ALPS稼働後からずっと言っています。
不謹慎なので、言うたびに反省しています。これが本当の水素水だ…。

でも、科学的に安全とだけ言い張る人たちは判断に倫理もお気持ちも持ち込まない人たちですから、
これを否定する理由はどこにもないはずです。
東京電力も企業なので、少しでも利益が出ることはやっていったほうが良いですし。
海に処理水捨てるためのトンネルとパイプラインを作るより、ボトリングする設備作るほうが安いのでは?
(トリチウム以外の核種を取り除いただけで飲料水レベルにはなっていないと思うので、
 ボトル詰めするだけで飲料水として出荷できるものではないでしょうけど。)

ただ、一般流通させると検査される可能性があるのと、おいしくなくて売れない可能性があるので、
国の行事や国会で使うくらいしかできないかもしれません。
この流通経路なら他社と卸値競争することもなくなりそうですし、
ついでに摂取量と体調を調べれば、一石二鳥どころか一石三鳥です。
処理水は余っていますから、トリチウム温泉とかもどうですか?



処理水排出開始までは原発再稼働や審査の話も出さなければ、もう少し穏便に進んだような気もします。
「原発止めている!反省しているから!海に捨てさせて!!」だったら、今よりは印象良いです。
排水を始めた後でポンポンと再稼働の話が出たら、騙し打ちみたいな形になりますけども。

全体の順序を見るとなんとなく先走っている感じがしますし、
いざとなればなんとかなるからやっちゃえ感が見え隠れします。
そういうのが不信感につながっているとわからないのか、
わかってやっているのか、どちらなのか大変興味深いです。

そもそもタンクの増設が本当にもう難しいのかは、我々にはわかりません。
なので、2年分くらいためる、もしくはためたふりをして、
「もう無理だから排出させてー」でもごまかせたのではないでしょうか。
いつかいっぱいになってしまうタンクを、なぜ増設し続けたのでしょう。
ここだけ妙にちゃんとしていて、気になっています。



技術者倫理でよく扱われている事例も古くなってきましたし、
この件はしっかりと調査したうえで、教科書に掲載してほしいと思っています。
政治的なアレで無理でしょうけど。



技術にかかわる人もそうでない人も、向こう側には人がいるということを忘れてはいけません。
私は自分がなにかつくるときも、買うときも、それを大事にしています。
…書類車検FD3Sのお金と時間と気持ちと車両、返してくれないかなぁ。倫理観のかけらもありゃしない。



儲かりたいなら、東京電力や政府から学べる部分がありそうです。(最後にすべてを台無しにする発言。)

―――

2023年8月。

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