オーディオマニアはなぜ磁性体を忌み嫌うのに、金めっき基板はありがたがるのか


オーディオマニアはなぜ磁性体材料を忌み嫌うのに、金めっき基板はありがたがるのでしょう。
そういうことをするから、「宗教」だの「無知」だのと言われてしまうのだと思うのですが。


まず磁性体材料を嫌うのは、歪むからと言われています。
でも、スチールのケースやねじを使っている機器でも、磁性体材料が使われている
電子部品を使っている機器でも、オーディオ機器レベルでは測定上問題になることはほぼありません。
ただし、データでは差が出にくくても音が変わる場合は十分にありますので、
磁性体材料が嫌いという人がいるのは不思議ではないです。

しかし、磁性体材料を嫌うのであれば、電解金めっきも無電解金めっきも避けなければなりません。
なぜならば、どちらのめっきも金の下にニッケルの下地があるから。
オーディオマニアが嫌いなニッケルです。しかも、信号が直接流れる部分です。
非磁性体のねじにこだわる前に、こちらを何とかしたほうが良いと思います。
トランスケースなんかも一般的に磁性体ですが、それを外して捨てる人はあまりいませんね。

ニッケルは丈夫ですし、電解金めっきは金の厚みも出せるので、コネクタなどには向いていると思います。
(安いコネクタは無電解金めっきのような気がしますが。)
オーディオ機器でも比較的抜き差しがある入出力端子でそれを使うのは、まだわかるのです。
金めっきは(一般的に)錆びませんし。
※錆びないのを良いことに電極を素手でべたべた触り、そのまま清掃しない方も多いようですが、
 金めっきは汚れないわけではありませんし、ちょっとこれは音質以前の行為だと思っています。
 オーディオアクセサリメーカーでもこういう者は割といますけれども。

ただ、基板の仕上げを金めっきにしたり、なんならレジストを廃して
全部金めっきにしたりというのは、よくわかりません。
前述のとおりニッケル層ができるので、抜き差しするわけでもない部分に
金めっきをしても、音質的にはデメリットしかないと思うのです。
ただし、音に癖が出る可能性はあるため、その癖が機器の足りない部分を
補っているように聞こえることはあるかもしれません。
失った情報は戻ってきませんし、歪んだものも戻らないので、これはあくまでもごまかしているだけですが。
磁性体での歪みを問題視するなら、信号路に磁性体材料はありえないのです。


音質的に一番良いと思われる基板の処理は、未処理の銅箔に
1種類のはんだ(リフローならはんだペースト)で高品質にはんだすること。
しかし、未処理の銅は見る見る酸化していきますから、現実的には薬剤で処理するか、はんだ仕上げになります。
はんだ仕上げ(HASL)は、基板をはんだ槽につけ、不必要なはんだを高温の空気で吹き飛ばすという方法なので、
金めっきほどパッドが平面になることはありません。
しかし、ある程度の生産数の場合、チップ部品はリフローするでしょうから、
パッドの平滑性が問題になることは少ないでしょう。
つまり、はんだ仕上げは、はんだが2種類混ざってしまう可能性がある以外は、
安いのに割と優れているということになります。
そもそも金めっき仕上げは耐久性を上げるのが目的であり、音質のためではありません。
音質重視で、かつ基板の保存性が現実的な選択肢なら、やはりHASLでしょう。

でもね……最近の機器内で多用されるコネクタ類、基本的に端子はニッケルめっきです。
なので、どうしても影響は出ると思います。
それを減らしたければ、ニッケルめっきや金めっきされていない端子を使うか、
電線を基板に直接はんだづけしましょう。
ICソケットも音が悪くなるので(めっき以外に接点も増えるし配線長も増える)、
もしオペアンプの下についていたら、すぐに捨てて部品を直接はんだづけします。
ICソケットの有無の差がわからないのであれば、耳か機器、もしくは両方の性能が良くないです。
あれほどわかりやすいものはなかなかないと思います。


なお、オーディオ+α程度の帯域でガラスエポキシ基板やレジストが性能上問題になることは
ありませんので、レジストなしの総金めっきは何の利点もないと思います。(高く見えるくらい?)
心置きなく、一般的な構造でお作りになれば良いと思います。
性能が出たら、数字で見えにくいところも好きなだけこだわると良いです。
この順序が逆になっていることも多々ありますが。

それでもなおオーディオ機器で金めっき基板信仰があるのは、科学を知らなすぎることと、
ただ高いものが好きなだけな人が多いのではないかなと思っています。テフロン基板なんかもそうですし。
一般的な性能のオーディオ機器でテフロン基板が必要になることなんてまずないです。
テフロンは電気的な特性以外に剛性などもガラスエポキシ基板とは違うので、音は変わると思います。
ただ、剛性由来の音の変化は、厚さを変えて適切に穴を開けたガラスエポキシ基板で
同じ効果が得られる可能性もあるので、イメージ戦略の側面が強いかな、と。


私が音を扱う機器の基板を頑なにHASLにしているのは、上記の理由からです。
値段が高くて音に悪影響がある処理をする必要はないと判断しています。
HASLに使用するはんだは、基本的にリードフリーのもの(無鉛はんだ)を選択しています。

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2023年8月。

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